研修医の暇つぶし

ここを心のキャンプ地とする

外科医はなぜ怒鳴るのか

突然ですが外科って人気ないですよね。

私が6年生の頃同級生に外科志望は1割もいませんでしたし、今の研修同期にもいません。

外科は手技あり病棟管理あり外来ありのいわばスーパードクターな訳ですが、その分若手のうちはきつい 汚い 緊急オペの3kに耐えなければならないという修行が必要です。

とはいえ他の科ももちろん修行ありきですし、医者という生き物はそれなりに頭がよく、つまらない業務での高給取りより、やりがいを大事にする人が多いです。その点外科のやりがいはすごいもので、一生かけて磨き上げる職人芸な訳ですから、外科に憧れる人も多いわけです。実際大学入学当時は外科志望の人はいっぱいいます。

ではなんで最終的な外科の人気がないのかというと、内部の人間性にあります。

外科の実情は、上の言うことは絶対のカースト制度。オペ中には患者のためという言い訳を使いオペ看やレジデントを怒鳴り散らす。カンファでは自分の得意分野の知識を披露し他の人のオペに難癖付けて口論するなど昭和感溢れる場所な訳です。

こういうものを実習で見てみんな外科を目指さなくなるわけですが、もちろん高い志を持って外科に入局していく人もいます。そして若い先生は昭和の外科は良くない。これでは若い人が集まらないと思い後輩に優しい先生が多いです。これなら数年後は外科もマイルドになるのかなと学生の時は思っていました。

しかしそういう先生も歳をとると昭和の外科になってしまうのです。なぜなのか…

 

その理由は外科の業務の全能さとキツさ、そして執刀への道のりの特殊性にあります。

外科は外来からオペ、術後管理までその患者の全てを自分が担当する性質上、業務を他人に頼む必要がなく、やろうと思えば全て自分で見ることができる自負を持っています(実際にはそんなことはないのですが)ですので、誰かにお願いするというよりは代わりにやってもらってるという意識であり、なんなら代わりに経験させてやってる位の意識な訳です。つまり礼節を失いやすいわけですね。

また全部をやる業務は過酷を極めており、次から次へと業務が降ってくる毎日、365日仕事なわけです。そんな中自分より仕事ができない新人の面倒を快く見れる人間はそう多くありません。

最後にこれが一番大きな理由ですが、外科はオペの奪い合いの科です。どんな大手術でも執刀は1人しかできません。そのため珍しい症例では執刀の奪い合いが発生します。そういう症例で執刀させてもらえるのはどんな外科医かというと、執刀のセンスがあるのはもちろんのこと日頃から雑用を率先して行い。寝ずにオペの練習をし、他の同期より頑張っている外科医な訳です。そしてこういう外科医が偉くなっていきます。

オペが上手い外科医が上に立つ。これだけ聞くと良いことに思えますが、この過酷な生活を続けていく為には「外科医とはこういうものだ。オペをやらせてもらうためにはどんなに怒られても、一生懸命練習して患者のために身を粉にして働かなくては」と自己暗示をかけて、自分を誤魔化さなくてはとてもこの生活はできません。

その結果、頑張るのが当たり前、できて当然。なんでそんなことができないの?の精神が完成し50を過ぎて上に立つ頃には若手に怒鳴り散らす外科医が誕生するのです。

つまりその人が優しいとか、人間ができてるとかそういう個人差の問題ではなく。全体として外科はそういうマインドを持っていないと上に上がれない訳ですから外科がオペ看やレジデントに優しい科になることはないでしょう。(外科の人間が減り過ぎてオペができなくなるまで行けば話は別ですが)

社会で働く上では厳しさは必要な要素なのでしょうが、それを開き直って全面に出していく必要は無いと思いますので、せめて学生や研修医がいる時くらいはぐっと怒りを我慢してみると入局者が増えて、仕事が少し楽になるんじゃないかなと思う訳です。